大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和36年(ネ)794号 判決 1963年4月30日

被控訴人 北陸銀行

事実

控訴人の抗弁。

「控訴人等は控訴会社の資金調達のため被控訴人から手形で貸付を受けた額だけの保証であると思つていた。そうすれば控訴人等が取締役だから自らきめられるから限度額の定めがなくともよい。然るに被控訴人が入手する控訴会社の手形一切につき控訴人等がその責を負わねばならぬとすると手形所持人と被控訴人が結託することにより会社の振出した全手形につきその責を負わねばならぬことになりその責任は無限でありここにも錯誤の問題があるとともに、取締役がその職務を行なうにつき悪意又は重大な過失があつた場合にのみ個人責任を負担さす商法第二六六条の三や身元保証法の精神に反する。控訴人等は唯被控訴人の差出した書面に署名捺印しただけだから仮に右書面の捺印が被控訴人の主張する意思表示だと知つたら、直ちに被控訴人主張の解除または保証の範囲制限の意思表示をした筈である。それをせずにすごして来たのは最後まで保証の範囲を被控訴人との直接取引の分だけと思い込んでいたからである。そのようなわけで若し金額無制限の保証をしたものだとすれば公序良俗に反するものである。」

被控訴人の反論。

「本件根保証のような継続的保証契約で、保証責任の限度額および保証期限の定めのない場合においても、保証人は無制限にその責任を負担しなければならぬものでなく、もし後日保証人の責に帰すべからざる事由により、当初予想もできなかつたような過重な責任を負担しなければならないような危険が生ずる虞がある場合には、保証人において取引慣行と信義則に従い、事情変更の原則に基づく契約解除権に基づいて、保証の範囲を制限することができるものであるから、責任限度の定めのない継続保証が公序良俗に反し無効であるとすべきではない。本件の場合控訴人両名にこのような解除権を与え、限度額を制限しなければならぬ取引上の慣行や信義則上の要請は存しない。何となれば控訴会社は控訴人両名の設立にかかるもので控訴人小嶋は社長、同桑原は専務取締役で両名がすべての経営に当り事実上両名の個人企業に等しい。然るに控訴会社は無資産で支払不能であり、このような結果を生ぜしめたのは控訴人両名の責任で本件手形の不渡はこの両名の悪意又は重大な過失に基づくもので保証人がなかつたとしても商法第二六六条条の三に基づく責任を負担しなければならない事情にあり、しかも銀行取引における根保証契約の約定書には通常の事例として限度額を記載することなく、また本件で保証債務の履行を求めている額は控訴人小嶋が控訴会社の代表者として引受けた手形額面金額であつて決して過重なものでないからである。」

理由

控訴人の公序良俗違反の抗弁につき検討するに、本件控訴人等の保証責任につき限度額が定められていないことは当事者間に争はないけれども、将来債務の保証に限度額が定められていないからとて、直にその保証が公序俗良に反する無効のものということをえない(大判大正一四、一〇、二八、集四、六五六)ばかりでなく、控訴人等の保証責任は控訴会社が引受、振出、裏書、保証した手形に関し同会社が被控訴人に負担する債務に及ぶものとせられていることは既に前認定の通りであり、控訴人小嶋が控訴会社の代表取締役控訴人桑原がその取締役であること当事者間に争がないところであるから、控訴人等は控訴会社が、引受、振出、裏書、保証した手形に関し被控訴人に対し負担する債務額は、常時これを確知しているべき立場にあり、会社役員以外の第三者の保証の場合の如く予想もしない過重な責任を負う事態が発生することは通常あり得ない。若し会社役員の更迭等何等か特別の事情があつてこのような事態が発生する危険が生じたときは、事情変更の原則に従い保証契約を解除しまたは一定の範囲に限定することを得るものと解すべく本件保証契約自体が無効であるとの控訴人等の抗弁は到底採用することができない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例